『昭和元禄 落語心中』 雲田はるこ

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刑務所落語慰問会で大名人・八代目 八雲の落語に魅了された与太郎は、出所したその足で八雲に弟子入りを願い出る。
弟子を一切取らないという八雲だが、気まぐれで与太郎を拾った。
「八雲」「助六」の名跡を巡る、落語に生きる人間たちの物語。

わたしは落語に全く詳しくありませんが、落語家の熱や、生き抜くことの生々しさを感じることができる作品です。
登場人物はみんな、喜びも悲しみも幸せも苦しみも全て「落語」から与えられている。
八雲が受け取った絶望は、八雲の中だけに収まりきれずに、熱も失わず、代謝をやめない。
「落語と心中する」いう八雲に与太郎という未練を拾わせたことに、落語が生きて意思を持っているようで震えました。
八雲と助六編では人の愚かさが悔しかったけど、それでも苦しみを背負って落語と生きる八雲の人間らしい部分が結果的に落語の糧になることに芸事の恐ろしさをを感じずにはいられませんでした。

何の矛盾もなく単純に落語のために生きて、与えたのは与太郎だけだったんじゃないかなぁ。
ただシンプルに落語を愛して、人を愛する与太郎の姿が清々しかったです。
こんなふうに生きる人生ってどんなに生き甲斐があるだろう。
与太郎が歩んだ道のりはその意味が大きすぎて、最後は感無量でした。
「八雲」と「助六」にこれ以上ない落ちをつけてくれたと思います。
そこには小夏が果たした役割も大きかった。
八雲もだけど、小夏の抱える感情が複雑で、素直になれない苦しさを見てきた分、二人の優しいやり取りが儚くて涙なしには読めなかった…
物語を追ってきて、本当に素晴らしいクライマックスを見届けられて感動です。
いやぁ、本当…とっても優しいクライマックスだった…

感動を引きずって重い文章になってしまいましたが、苦しい時も、嫌味でも、落語家のさりげない洒落っ気が素敵でいい言葉がたくさんあった作品です。
昭和ならではの人情も温かかった。
この物語で八雲という人の人生一緒に辿ることができて幸せでした…
気分は松田さんです。
あの松田さんの「八雲師匠」と涙はダメ…反則です…
八雲という存在の大きさをひしひしと感じました。
すごい人だったなぁ。
最後まで色気ムンムンでしたし。
五代目 菊比古がそれを受け継いでいくのか、先が楽しみです。
その話も是非読みたい!

アニメはこちら↓