『3月のライオン』 羽海野チカ

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何もない、生きる術はただ一つ、将棋だけ     
17歳のプロ棋士・桐山零。
全てを失い、自分に残された将棋の道に打ち込むほどに傷つく零の心は救われるのか。

それぞれの人物の視点や心情が丁寧にかつ脈打つような力強さで描かれた作品です。
『ハチクロ』でもそうでしたが、色んな気持ちが強く強く伝わってきて、かなり心がギュっとなります。
主人公の零が中学生デビューのプロ棋士で、将棋が軸になった漫画ですが、全く知識が無くても勝負の中の棋士の心の動きだとか、スタイルや性格が物凄い勢いで感じられます。
コミックスに掲載されている、将棋監修・先崎学 九段のコラムは将棋のルールに関することや、プロ棋士たちの実態などが読みやすく書かれていてとても興味深いです。
もちろんコメディ要素も多分にあり、外で一人で読んだりする場合は注意が必要です。
声が出てしまう可能性がありますので。(あと涙も!)
小さい子ども(モモ)とニャーたちの可愛さは度々心の許容量を超えて、息が荒くなってしまいます…
ごはんがおいしい川本家に暮らすニャーたちは、食に貪欲で心の声と目の輝きとヨダレがすごい。
寝姿も…ネコ飼ってる人なんか特にヤバいのでは…!ハァハァなるのでは…!!

人付き合いが苦手な零の学校での友人はみんなおかしいです。
野口先輩も素晴らしいのですが、特に仲良しの林田先生だいすき。
零と仲良すぎて、学年が変わった時とか思わずBL的な動悸をもよおしてしまいました。
彼はすごく親身でケアの上手い教師で、零が学校生活で悩みながら得たものをちゃんと認めてくれたり、兄貴的に零の軌道修正をしてあげたりと、大活躍の将棋ファンです。(下心あり)
林田先生のおかげで、最終的にアウトレイジ的ないい将棋部もできあがりましたし。
部員(校長・教頭・学年主任・元担任)、卒業しないし。
なんだかんだこの高校での一番の実力者が零ということに…

将棋界の面々はアウトローな会長をはじめ、どれも強烈すぎてみんなすき!
宗谷名人も隈倉さんも雷堂さんも島田さんも岳人さんも辻井さんも…!
でもとりあえずやっぱり二海堂です。
腎臓を患って、思い通りにならない体でありながらも、限界まで将棋に食らいつく姿勢は夭折した天才・村山聖と重なります。
二海堂は零のライバルであり、将棋があったからこそ出会った大きな存在。
彼の存在が零を支え、零も彼を支えている。
最初は一方的な感じだったけど、小さい頃からずっと将棋で向き合ってきた彼らは、知らず知らずのうちにお互いの中で大きな存在になっていて、尊敬し合っている。
二海堂が零に必死に呼びかける姿は、画面から彼の純粋さが滲みだしていて胸を打ちました。
相手にどう思われているかとかではなくて、自分が大切なものを大切にするっていう強さがすごい。
将棋こそが自分にとって価値あるものだという思いに堂々と従う強さも。
二海堂だけではないけれど、負けのくやしさや勝ちの苦しみも痛いほど伝わりました。
同じ道に立ち、同じものに向かう者同士にしか見えない景色や、得られない絆も、なんというか、圧倒されました。

将棋の外の世界で零を支える川本家の人たちもみんな自分の世界を一所懸命に生きています。
とても優しくて、その裏には痛みを知っているから分かち合うことができるのだということだったり、自分が誰かを支える存在であることが自分自身にとって救いになったり、そういう循環のなかで自分としっかり向き合っている人たち。
零が救われる度に、どうしても泣けてきました。
自分が変われば世界の見え方もどんどん変わってゆく。
「勝つこと」は罪悪感を伴うものだったけれど、やがて「勝つこと」を自分の力にできるようになってきた零。
零の世界がこれからどんな風に開けていくのかまだまだ楽しみです。

◎アニメ・映画情報
アニメが2016年10月8日から放送。(土曜日23:00-23:30/NHK総合)
主題歌はBUMP OF CHICKEN!

映画は2017年3月18日と4月22日に前後編2部作で公開。
主演は神木隆之介くん!
零役はこの人しか考えられない!神配役!!
他は、宗谷名人が加瀬亮さんとか、島田さんが佐々木蔵之介さんとか、幸田のお義父さんが豊川悦司さんとか…私としては男性陣のキャストがアツイです!

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