『BASARA』 田村由美

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舞台は文明が滅び、荒廃した日本。
白虎の村に生まれた双子・タタラと更紗。
兄・タタラは予言者ナギによって「運命の子供」と告げられた。
やがて国を救うと言われたタタラに人々は熱望を寄せる。
ある日、村に攻めてきた「赤の王」によってタタラは殺され、絶望する人々を救うために「タタラ」を演じた更紗は「運命の子供」としての真の人生を歩み始める     

間違いなく「不朽の名作」と言える作品です。
暴政と荒廃に苦しみ、革命を望む世界で「運命」を託された子供たち。
衝撃的で理不尽な幕開けとともに、更紗の運命は廻り始めます。
悪魔のように希望を奪い、人々に絶望を与える赤の王として己の道を行く朱理。
「更紗」としての人生を捨て、人々のために「タタラ」として生きる覚悟をした更紗。
皮肉にも「更紗」と「朱理」として出会い、何者でもない自分自身を共有する。
タタラと赤の王、更紗と朱理という溶け合うことのことのない2つの世界が1つの器の中にある苦しみは、物語が進むにつれて増幅されていきます。
ただの自分と、何者かである自分を同居させる難しさは誰でも持っているもの。
みんな、色んな自分を持ち合わせて生きていくのは当たり前だけど、更紗も朱理もとてつもなく重いものを背負っているし、更紗なんかそもそもが別人だし。
憎しみや責任を意識すればするほどに自分自身を癒すやすらぎが必要になってしまう。
幸せそうな二人の姿にすごく心が痛くなりました…
肩書きも何もない、ただの自分としてだけ向き合えたならこんなに幸せなことはないのに…とだいぶ一緒に苦しんでしまいました。

この物語には色んな人が登場して、人間関係がそれぞれはみ出しているのが面白い。
みんなが色んな顔を持っていて、誰かの憎い人が誰かの愛する人で…ということがリアルに描かれていて苦しい場面もたくさんあります。
でも、だからこそ、単純に憎める人は誰も出てこない。
敵・味方と簡単に色分けできる人はいません。
色んな思いが交錯して、一つ一つの死も別れも、それぞれがちゃんと傷を残していきます。
国という大きな流れの中で様々な出来事が起こり、状況はどんどん変化していくけれども、結局みんなが持つビジョンや願いは同じで、ただやり方が違って、それぞれの正しい道を行く途中で敵対してしまう。
そういうどうしても束ねられないことが、どういう風に交わっていくのかというところが最大の見どころだと思います。
「更紗」を生かすには「タタラ」を捨てるしかないのか。
そのどちらも生かす道を見つけることができるのか。
皆それぞれに与えられた予言が繋がってゆく様は、涙なしには追えません。
更紗と朱理がどんなに許されないとわかっていても捨てられない想いに、とにかく胸が震えます。