『ヒストリエ』 岩明均

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自信の出生の秘密から奴隷の身分となったエウメネスは、そこから自身の思考力、行動力、判断力で人生を切り開いてゆく。
後にアレクサンドロス大王の書記官になる青年の波乱に満ちた人生の物語     

『寄生獣』の岩明均先生の作品!
舞台はあのアリストテレスの生きる時代のギリシアです。
その時代に生きる人々の暮らしが生き生きと描かれています。
民族性や価値観、身分制度など、秩序の中にも暴力性を孕んでいる時代。
目を覆いたくなるようなシーンも度々あります。

教養もあり、賢い少年・エウメネスの平和で好奇心に満ちた日々はある出来事と出会い、そこでの彼の行動で一変します。
しかしそれはエウメネスの真の人生の始まりだった。
この人生を生きた人間が実在したんだと思うと本当に感慨深いです。
そういう劇的にドラマチックな人生なんて、これまでの歴史のなかではありふれているんだろうけど、本人の回想録を伴って進む物語は、紀元前に生きた人物の体温を生々しく感じさせてくれます。
紀元前て。
文化があって、人の生活があったこともリアルに想像できないくらい遠いのに!

エウメネスの素質というか、その考える力や物事の捉え方、判断して行動に移す姿はどうしても特別で、身分がどうであれ、その人としての器が周囲の人の心を掴んでしまう。
向かってくる様々な状況を、飄々と捌いて渡っていくエウメネスの生き様にワクワクさせられます。
考えること、行動することをやめない限り、流れは形を変えてゆく。
自分に降りかかる変えることのできない事実や出来事を受け入れて、どう捉えるかで人生は全く違ったものになっていくのだということをエウメネスは体現してくれます。
彼は無敵の超人ではなくて、ちゃんと揺れたり動いたりする形があやふやな心を持って生きている。
人の人生ってすごいなと、どう生きていこうかとアドレナリンが湧いてくるような感じ。
エウメネスが経験したことや感じたことに、たくさんの教訓を見つけることができるのも面白いです。