『BLACK BIRD』 桜小路かのこ

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実沙緒は小さなころから人には見えないものが見える。
16歳の誕生日を境にそれはひどくなり、身の危険すら感じ始めたとき、今はもううっすらとしか思い出せなくなっていた幼馴染の匡が実沙緒の側に戻ってくる。
匡は実沙緒を守り、花嫁として迎えると宣言して     !?

喜び、悲しみ、愛することの幸せや苦しみ、笑い、癒し。
あらゆる方向から心を鷲掴みにされる物語です。
バカなこともいっぱいして、ただただみんな大好きです。
たくさん笑いもしたけど、わたしにとってはたくさん泣いた感動の作品となりました。
ので、泣きメインの感想になってしまいそうです。
苦しみとか憎しみを納得させるだけの愛情がつまった壮大な物語でした。

物語の骨組みもしっかりしていて、人の心もしっかりと描かれています。
「仙果」についての謎は実沙緒と匡の愛をともに深まり、紆余曲折いっろんな試練に心を揺さぶられまくりましたが、その終着点も最高でした。
あんなにグレていた祥だって自分の人生に傷ついたり苦しんだりしていて、とても歪で間違ったやり方だったけれど、やっぱり盛大に泣くことになってしまった…祥…うう…

キャラが生き生きしていてそれぞれに愛すべき個性があり、みんな大切だと信じることのために悩んだり苦しんだりしながら懸命に足掻きます。
その中心にあるのは匡の存在で、それだけみんなに慕われる魅力があり、匡は実沙緒だけではなく天狗たちみんなのヒーローでした。
匡の魅力が本当にすごい。
天狗たちそれぞれが匡を慕っているのですが、やっぱり三つ子ちゃんたちが筆頭でしょう…!
太郎ちゃんに対する匡のスパルタドSな仕打ちはヨダレものです。
太郎ちゃんには悪いけど、太郎ちゃんの涙が蜜の味というか…そんな風に泣いたらもっといじめたくなっちゃうよ…!!
いじられ体質の太郎ちゃんだけじゃなくて、次郎も三郎も性格が違ってそれぞれに愛らしい…

物語が進むにつれて二人の愛情は深まり、それゆえに二人を迎える試練も厳しいものになってゆきます。
クライマックスはずっと嗚咽しながら読み進めました。
二人で過ごす時間は砂のように抗いようもなく流れてゆき、その一粒一粒が二人にとってどれだけ大切で愛おしいものかというのが全ページから溢れていて、幸せで、苦しくて、何度読み返しても膝から崩れ落ちそうになります。
二人を通して見る景色の美しさは鮮やかで、儚く、息を飲みました。
匡の激しく深い愛情を全て受け止める実沙緒。
実沙緒も匡も、お互いを思う気持ちが言葉にできない程溢れていて、それを伝えるのは「好き」という一言だったり、抱きしめる力だったり…もどかしいけれど、そんなふうに手を伸ばし合う二人がずっとせつなかった。
せつないばっかりじゃなくて、匡がどんだけ実沙緒のこと愛してるのかっていう、そういうのもそこかしこで爆発していて、幸せが込み上げて実沙緒と一緒にわたしも泣くしかありませんでした。

最終巻の18巻、ヤバいですよ。
一気読みを心からオススメします。