果てしない渇きと絶望を抱えた男たち 最澄と空海。
同じ時代を生きたこの二人の天才を飲み込んで、歴史は大きくうねった。
天才たちは追い求めるものをその手で掴み取ることができるのか 。
画面を縦横無尽に使った心理描写が、心に大迫力で迫ってきます。
なんという感情だかよくわからないけれど涙が出る。
最澄と空海の器、魅力、深みが、あらゆる要素を介して伝わってきます。
心にぶつかってくるようなズシンとした言葉に、自分の心が開かれるというか…上下左右あらゆる方向から心に響きます。
求めるものを見出すことへの渇望。
登り切ったと思ったところには何も転がっていない。
ここに答えはないという絶望を繰り返し、またそれを抱えて歩いてゆく姿が圧倒的なのです。
その絶望を分け合うこともできず、誰にも理解されない孤独。
二人とも年齢や立場、性質は違えど、二人だけにしか立ち入れない孤独がある。
ただただ純粋に無垢に己の人生を生きる二人の姿は、言葉もなく立ち尽くすような感動を覚えます。
そして周りの人々も彼らに、諦めるように巻き込まれてゆきます。
その諦めもとても魅力的なのです。
彼らが引き起こす大きな流れからもう逃れることはできないのだという喜びに似た諦めが、これまで歴史の中できっと何度も現れてきたのかと思うと、何か得体の知れないものに自分も飲まれているような感じがして、海の真ん中に一人放り出されているような気分になります。
歴史に、この世界に望まれて、それぞれの人生を生き抜いた二人。
実際の高野山も比叡山も、特別な場所だと思わずにはいられない空気を纏っています。
自らの心と体で道を求め続けた最澄と空海が1200年以上経った今でも礎としてあり続けているってすごい…
わたしは個人的には空海ファンなのですが、この漫画でもやっぱり空海に魅了されています。
周りをどんどん巻き込みながら大きな渦になってゆく空海と、静かに深く深く潜ってゆくような最澄。
空海は心のままに獣のように自分を追い詰めて探ってゆきます。
最澄の方が年齢が上ということもあり、しがらみがまとわりついていてハラハラしてしまう…
その存在の大きさゆえに、周りも放っておいてはくれないし。
よく人一人の人生でここまでのことをやってのけたなと思います。
最澄も空海も、本当にただ自分の道に邁進しているので、作中には核心を突かれる言葉がゴロゴロ転がっています。
人間の根本的な業を背負った人たちがたくさん出てきます。
複雑で愚かな人々。
そんな世界で二人の光は毒のように星のように、人々の心を射貫くのです。
二人の天才を喰らってうねる世界を見ておくべきだと思います。
二人はその人生で何を見つけ、私たちに残したのか。
この舞台は現代にもちゃんと続いているし、すごく強い引力のある歴史への入門になりえるはず。