『グッドナイト、アイラブユー』 たらちねジョン

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大学生3年生の夏、大空は一人で母を看取った。
「私の死を、ロンドンの友人に伝えて」
母は大空に手紙を遺し、大空は母の遺言を果たす旅に出る     

旅と手紙を通して進んでいくお話です。
この作品がなんとデビュー作であるという衝撃…!!
旅の中にいる自分の、あの根っこを脱ぎ捨てた感じがとても鮮やかに描かれていて、ずっと大空と一緒に異国の空の下にいるような感覚で読んでいました。
海外に行ったことがある人は、きっとその時の空気を鮮明に思い出すのではないでしょうか。
行ったことがなくてもきっと大空と一緒にそこに立てると思います。

旅って、日常の中で自分にこびりついたものが剥がれ落ちて、シンプルなただの自分になれます。
自意識から解放されて、純粋に「今」を感じられる。
家族の前での自分とか、友達の前での自分とか、思った以上に自分のかたちを作ってしまっていて、そこから抜け出して自分が再構成される旅の醍醐味。
大空も悲しい始まりではあったけど、お母さんに導かれて、今まで自分が存在していなかった世界に手を伸ばします。

最初は旅の理由すら自分では持たなかった大空。
自分と世界を繋いでいた大きな存在であった母を亡くし、その悲しさを一人で受け止めた大空は目を閉じて立ち止まります。
旅の目的を母は最期に大空に遺し、大空はそれに従ってみることにします。
全然主体的ではないけれど、大空は自分を知らない世界に立ち、母の人生に触れ、色んな人生に触れる。
そんな旅の中で、母も兄もみんなそれぞれ自分の人生を生きて、喜んだり悲しんだり愛したり憎んだりしていることを目の当たりにするのです。
当たり前のことではあるけれど、それを受け止めるのって、今まで目に映っていた世界が一変するような劇的なことだよな~と思います。
でもそんな世界を知ってしまうと、見えているものが全てではないということがわかる。
わかりやすく表現されていなくても、確かに想いがその人の中にあるのだとわかってしまう。
ただただ一方的に甘えるということができなくなって寂しさもあるけれど、独り立ちってそういうことなんだろうなぁと、いい大人ですが二十歳の青年にシンクロして切なくなりました。

お母さんのヤエさんは、最初は「大空のお母さん」でしかなかったのに、旅を経て見事に「遠藤ヤエ」という一人の女性になってしまいました。
お母さんで、妻で、恋人で、友達で…色んなヤエさんがいて、そんな自分の人生をただ知ってほしいって甘えるヤエさんがとても愛おしかったです。
私は両親の他の色んな姿をあまり知らないので、それってすごくもったいないよな~と思ったり…父と母がそのときそのときでどんな気持ちや考えを持っていたのか、そんな話を聞きたくなりました。
その人の人生を知ると余計に、お兄ちゃんである大地とかお母さんであるヤエさんが愛おしくなるような、心に沁みる作品でした。

「グッドナイト、アイラブユー」
このやさしい言葉が、広い世界のどれだけの人に、どんな想いで交わされているんだろう。
最終的にこのタイトルだけで胸がいっぱいになって涙が…
4巻で完結だけど、もっと長い旅だったような気がします。

あーーー!旅したい!!

スマホ一つで手配はできるが…
理想のプラン立てては行った気になる妄想ばかりです…
ヨーロッパうろうろしたい………お金と時間…