『僕だけがいない街』 三部けい

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ごく平凡に静かに毎日を送る青年・藤沼 悟。
そんな彼に時折訪れる”再上映(リバイバル)”という時間が巻き戻る現象。
ある事件をきっかけに起きた”再上映”で彼は過去に引きずり戻される。
世界の歯車が狂った最初の分岐点はどこだったのか。
大きな後悔を抱えて、悟は最大の”再上映”に挑む     !!

絵が苦手だと思っていたけど、ずっと気になっていてやっと手に取った作品。
読み始めたら止まらなくなり、一気に最後まで読みました。
息をするのも忘れるくらい、本当にもう夢中で。
物語の世界の1秒1秒が濃く、自分も悟と一緒にその世界を生きているような感覚で駆け抜けました。
全9巻、9巻は番外編で本編は8巻まで。
この巻数に収まっていたとは思えない濃密な物語でした。

息が詰まるようなスリルももちろん見どころではありますが、やっぱり1番は「愛情」が描かれているということ。
親子の愛情、友情、恋愛もほんのり…
展開にゾクゾクしながら、人の気持ちが見えて感動…という繰り返しでした。

悟は「歯車が狂った世界」の先を生きてきて、さらなる喪失で大きな大きな後悔を抱えて”再上映”のチャンスを与えられる。
まだ何も失われていない世界で、全てを守るチャンス。
絶対に違う未来をつくる。
絶対に失敗してはいけない。
そんな全身全霊を懸けた”再上映”を生きながら、「1回目」では見えていなかったものが見え、愛されていたこと、世界を切り拓くことを知ってゆく悟。
強い意志はあるものの、手探りで、自分を信じるしかない世界。
その芽はどこから伸びているのか。
世界は目に見えることだけで成り立っているのではなく、もっと深く潜って関わらなければ変えられない。
必死で行動する悟に友人たちや母親も力になって、それがもう熱くって…!!
お母さんの愛し方が本当に偉大っていうか、すごかった。
「1回目」も同じように愛情は注がれていたから、それを受け取れるようになって受け取ってみたらとてつもなく深い愛情だったっていう。
自分の世界でも、確かにそこにあるのに見えていないものってたくさんあるんだろうなと思うと、世界が愛おしく感じられて泣きそうになってしまいました。

今の自分の目で見ると、子どもの頃ってどんな世界なんだろう。
きっと色んな愛情に守られた世界で、「自分が親になったらわかる」っていうのはそういうことなのかな。
小さい頃のことは忘れていることもたくさんあるし、現実ではもう戻れないから、その儚さとか、今どれだけのことを受け取れるかっていうことをもっと意識して生きたら悟みたいに世界って変わるんだろうなと思いました。