『春風のエトランゼ』 紀伊カンナ

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駿は実央と島を出て帰郷する決意をした。
胸に重いものを抱えて故郷へ向かう駿。
数年ぶりに帰った実家、そこにいたのは     !?

『海辺のエトランゼ』の続編です。
二人で島を出るところから物語は再開します。

駿が実央っていう存在を手に入れてからの、あの腹をくくった感じがとても良い。
ちょっとしたことが心に引っかかったり、甘えたり素直になることに腰が重い駿が、実央とほの甘~い感じで心を溶け合わせていくのが………もう二人とも抱きしめたい。
屈託ない実央の愛情と、それを受け取る駿のげんなり顔がとっても幸せ。
も~駿がげんなりから甘えん坊にスイッチ入った時のギャップですよね~~~

基本的にほんわか穏やかな二人ですが、実央はニコニコで「セッ♡セッ♡」って言っててラブラブ度合いも上がっている!
素直に幸せに身を任せられない駿に実央が男の子らしく迫っていってくれて、なんていうか、本当にありがとう。
駿がつれなくても全くめげない実央が素敵すぎる…
そして実央のおチンは相変わらずバカなのでした。ふふふ。

で、実央のバカなおチンもいいんですが、今回の大切な目的は「駿の帰郷」なのです。
それも実央を連れての帰郷。
『海辺の~』では駿を通してしか描かれなかった駿の両親。
絶望的に傷ついて南にやってきて、自分の心を守るのに精一杯だった駿。
駿にとって両親は自分を否定するっていうイメージが心を満たしていた。
重~い駿の心を桜子がおもいっきり押して、実央が確かに支えている。美しい。

いろんなものを遠くに置いてきて、でも時間が止まったわけじゃない。
時間は自分だけじゃなくて、蓋をしてきたこと全てに平等に流れている。
自分が平気じゃないように、両親も平気で過ごしていたわけじゃない。
それを目の当たりにしてやっと、人の心の中での自分の存在の大きさがわかるんだろうなぁ。

そこでまた実央がすんごくいい「つなぎ」になるんですよ!

もうすごいかっこいい、駿のいちばんの味方。
実央はなんであんな柔らかな強さで、ブレないんだろう。
実央がみんなをいいバランスで繋いで、駿もお父さんもお母さんもちゃんと心が見えて、胸がギュってなる場面がたくさん…
お母さんが本当に太陽みたいで、あぁお母さんってこんなだよな~っていう感じ。
あの時は戸惑ったかもしれないけど、結局誰よりもドシンと受け止めてるのってお母さんだな~って思います。
で、結局明るいの。
お母さんのお母さんっぷりに胸がギュッてなります。
実央もこんなふうにちょっと切ないようなくすぐったいような気持ちなのかな。
お父さんはお父さんで、駿そっくりで微笑ましいし。
この両親の子どもなんだな~。
駿がいなくなってからの色々を乗り越えて深まった夫婦の絆が眩しい。

それと今作の爆弾小僧・ふみ。
子どもらしいストレートさで駿と実央にガシガシ切り込んでくる。
子どもって繊細で時に残酷で、昔の駿だったら受け止められなかったんじゃないかな。
だけど今は実央がいる。
一緒にいて、自分はこういう人間だと、ふみの前で堂々と立つことで駿は自分で自分を肯定できるんだろうな。

みんなが元気になっていって、明るく笑って、ちゃんと息をして、家族ってどんなに目をそらしても家族なんだな~って感じられる作品です。
人は人の中で生きているんだと、明るく思える。

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