『いとめぐりの素描』 青井秋

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物心ついたころから家業でもある刺繍に脇目も振らず没頭する繍子。
ずっと大好きで打ち込んできたバレエに区切りをつけようとする明。
滾るような情熱は持っていないけれど、一つの恋を大切に守ってきた友枝。
高校最後の年、3人は悩みながら自分のあるべき姿、行くべき道を探す     

不安や迷いで進めなくなってしまったとき、考えがまとまらず何も手につかないときに読みたい作品。
絵も繊細で美しく、色んな刺繍が持つ物語を垣間見るのも面白かった。
それぞれの道へ進んでいく高校3年生というデリケートな時期の何か夕方みたいな雰囲気や、友達に対して抱く複雑な思いなんかが懐かしく思い出されました。

職人気質の繍子が刺繍の作業に入り込む姿を見ると、心が澄んで落ち着いていきました。
彼女はずっと自分というものをシンプルにとらえていて、自分という存在を成り立たせているものが何かというのをわかっている。
一番重要なことがわかっているから進む方向を間違えずにただ進んでいく。
その姿が眩しくて、自分の中の迷いや不安がはっきりと照らし出されてしまう怖さにも共感できました。
でも結局は自分と他人なんて比べようがないし、どんなに散らかっていてもそこにある大切なものは自分にしかわからないし。
だんだんと自分の世界が片付いていくんだろうと思います。
繍子の心の持ち方が私にとっての理想で、悩むときも手を止めない、手を止めない限り何かが変わっていく、そんな風にいられたらどんなに人生を満喫できるだろう。
私、繍子の密着ドキュメンタリーとかあったら絶対録画して見るな。
情熱○陸とかプ○フェッショナルみたいな…!
黙々と何かをする人の姿って、悩んだり迷ったりしているときには一番いい薬です。

友枝は繍子と明の情熱を羨ましく思いながらも、それは自分の持ち物ではないとわかっていて、自分でしっかり決断できる芯の強い子。
羨ましいけれど、そういうところを尊敬しているのだという潔さが綺麗だった。
そしてモテる。
ほんと、ヒロ君見る目あって良かった。
対照的に、明は情熱がある分だけ不安も大きくなって、自分の求めるものを現実として捉えるのが大変だったろうと思います。
あと一押しってところを追い込んでくれたのは、繍子と友枝の姿。
自分がバレエから逃げ切ることはできないって確認することが必要だったんでしょう。
明の迷いと戦う姿も綺麗でした。

どんなに小さく見えても、どんなに大きく思えても、自分にとって価値のあるものを辿って行くしかない。
自分の幸せは自分の世界にしかない。
当たり前だけど、なかなか難しかったりすることをしっかり守っている3人が素敵な物語でした。

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