『SUPER NATURAL / JAM』 絵津鼓

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「『当たり前』などない こうやって同じ家に帰れる環境や 大地が隣にいてくれることは 注意深く 胡坐をかかないように かけがえのないものだと 忘れないようにしないといけない」
美容専門学校の同級生で、学生時代から付き合い始めた暢と大地。
それから4年が経ち、社会人になって一緒に暮らす二人の恋の続きの物語。

『SUPER NATURAL』の暢と大地のそれからのお話。
『IN THE APARTMENT』のアサトくんも極ちらっと姿をみせてくれます。

学生時代は将来のことや恋愛で青臭く悩んでいた二人も社会人になり、それぞれの個性がより濃くなっていて、二人がまとっている「4年間」という歳月の気配にとりあえずジーンとする。
大地のことがずっと大切でどんどんイケメンになる暢と、暢に変わりなく穏やかに愛されてどんどん可愛くなる大地。
二人とも「男」というアイデンティティーを持ちながら、こうも違う花を咲かせるのかとそのポテンシャルの手をぎゅっと握り返す私です。

学生の頃は周囲にすっと溶け込んでいた二人の関係だが、新しい世界で新しい人間関係の中でも変わらず一緒に居られるように工夫もしながら暮らす暢と大地。
全ては日々少しずつ変わってゆく。
止まっているように思えても、ちゃんと動いている。

内側から見る景色は変わらないのに、外側は変化している。
ふと鏡に映る自分の姿に違和感が走る。
幸せなのに、変わっていく自分の感覚を認めるのは怖い。
幸せなのに、どうして自分だけ変わっていくんだろう。
「女」になっていくわけではないけれど、些細なことが「男」というアイデンティティーに響く。
暢と付き合って、体も変わっていって、「元」の自分にはもう戻れないところまで来てしまったんじゃないかっていう、そんな自分を受け入れることってすごく難しいことだと思う。
大人になったぶん動揺を抱えられるようになった大地が不安を捏ね回す姿は、いつかの私自身が重なって苦しくも愛おしかった。

そもそもが暢は「不変」というものを背負っている人だと思う。
いや変わるんだけど、いくつになっても何してても暢は暢じゃないですか、どうしても。
どんな台風でも常に目の中にいるみたいな。
俯瞰してるときも自分の目で見ているというか。
常に「自分」という定点があるところがもうたまらなく私の女心を突き刺してくるんですよ。
暢めっちゃ好きなんですよ私ー!!
職場で「浅田さん」とか呼ばれてやれやれ…みたいな顔してる暢も好きです私。
それでいて大地しか眼中にない暢が。

だから作田さんにとって暢はどんだけ眩しい存在だったろうと。
「その彼氏のどういうとこをいいと思って付き合ってるの?」って周りから言われるときの、自分が折れそうになる孤独感とか寒気がする程リアルで…
作田さんはそんな恋の渦中にいるのにとてもイイ子で、やっぱ女って強いな、これはそうそう折れんなと思ったのでした。
とても感じの良いスパイス女子でした。

大地も作田さんくらいスカッとした性質だったらもっと生きやすいだろうに…
大地が悩んでぐちゃぐちゃになってる隙間に挿み込まれる暢の悲しいツッコミとか、大地の自己嫌悪を「そんなん、おかしなことじゃない」と冷静に肯定する暢の定点コメントは、偉大な救いだった。
暢は自分の心の整理の仕方がすごく上手でうらやましい。
生きやすいだろうなぁ。
作田さんもそのへん自分でできる子っぽいからきっとそう遠くないうちに幸せになるんでしょう。

ズブズブに悩みまくる大地ですが、基本的に暢が大地を可愛がりたくてたまらないから安定のラブライフなんですよ。
二人のスイッチが入る瞬間なんて、たまらなくクリティカルでしたよね…猛ってる暢…
暢の甘やかし口調も心を撫でられる心地だし…暢のいる生活いいな…しかもあんな溺愛されて。
まぁ、その暢の愛の様式が大地の心を揺らしてたんだけども。
どうやって大切にするかとか、どういう関係が対等なのかとか、自分らしさとかって自分の問題でもあり、二人の問題でもあって、ほんとにデリケートでうんざりしそうになるけど、二人はしっかり立ち向かいます。
二人のラブラブなシーンも、話し合いとかやり取りも、すべてに濃密な恋愛の最中のリアルさがつまっているお話です。
見失ったものを二人で一生懸命探す姿を見てほしい!

ちなみに、『続 IN THE APARTMENT』(美容学校同級生のアサトくんのお話)にもちょこっとリンクしてるので、そちらの暢も見て欲しい…!ちょこっとだけど!