『トーチソング・エコロジー』 いくえみ綾

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売れる気配のないビンボー役者のスー(清武 迪)。
最近、聞いたことのない歌がどこからか聴こえる。
グダグダの日々を過ごすスーの隣に、ある日高校の同級生だった日下 苑が引っ越してくる。
スーにしか見えない謎の子供が苑にまとわりついていて     !?

静かにじんわり涙が溢れてくる物語でした。
生きている人、死んでしまった人の間で止まってしまっていた想い。
たくさんの後悔がスーちゃんの胸には埋もれていて、その後悔の種はどれも小さなものだったのに、気が付けばどうすることもできなくなってしまっていた。
「潔く柔く」とはまた一味違った、再生に向かう物語です。

スーちゃんはキュンとするイケメンでもないし、カッコイイ場面もなく、小汚いヘタレ貧乏役者なのに、あんなに心を奪われるいくえみ作品の不思議。
なんなんだコイツは、と訝しく思いながらも、「歌う子供」をちゃんと見て話をするスーちゃん。
今まで取りこぼしてきたものを拾い集めるように、もう蓋をしてしまわないように、苑を見捨てないスーちゃん。
もう向き合うことはできないと思っていた後悔に再び向き合うチャンスを得て、スーちゃんの人生が動き出して、みんなの魂みたいなものが救われて…何とも言えない涙が出ました。
嬉しくもあり、寂しくもあり、でも温かい。
峻がスーちゃんの隣で幸せそうに笑う姿は、寂しくてたまらなかった…
夢なのか現実なのか、そんな時間を一緒に過ごして、魂とか命とかがまた巡って、繰り返して。
ラスト、すごく良かったです。
そうくるか!というのはあったけども、とても良かった!
生きていくことってなんて壮大なことか。
きっとスーちゃんと同じ表情で、遠くを見るように、あの紙が舞うシーンをしばらくぼんやり見つめていました。
小汚いとか言ったけど、最後のスーちゃんはなんだかすごく素敵でした。
苑も、というかあの「歌う子供」も、ちゃんと大切にされてよかった。
強くなっていく苑にも感動しました。
かなえちゃん、バカ女だと思っていてごめんなさい。
イイ女でした。
かなえちゃんと一緒にいるスーちゃんはちょっとかっこよかったよなぁ。
かなえちゃんといる峻も好きだったなぁ。
「同志」だったからかな。
予想以上に素敵な役回りで、わたしも大ファンになりました。
霊感少女…フフフ…

目に見えないものはちょっと怖いけれど、こんなふうにもし会えるのなら、わたしは誰に会いたいだろう?とグルグルと考えてしまいました。