『乙嫁語り』 森薫

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19世紀の中央アジア、カスピ海周辺の地方都市。
20歳のアミルは12歳のカルルクに嫁入りした。
夫婦として暮らし始め、少しずつ惹かれ合う二人。
遊牧民と定住民、地域、民族の事情。
穏やかな日も荒れた日も、二人は手を取り合って生きてゆく     

結婚の日に初めて顔を合わせるアミルとカルルク。
子どもの結婚相手は父親が決めるというのが当たり前の文化。
父親は絶対的な存在で、家族は父親の決定に従う。
「個人」が尊重されうる場所で生きる人からすると、「家」や「一族」を中心に決められる生き方はすごく困難なものに思えるけれど、そこに生まれる愛情もちゃんとあって、「結婚」っていうのは人間が生き延びる方法の一つなんだというのがよく理解できました。
かといって、その日初めて会う人と人生を共にするというのはショッキングなことに変わりありませんが。
そして結婚式に懸ける情熱がハンパない。
村総出で盛大なお祝い、綺麗な衣裳、ごちそう、ごちそう、ごちそう…!
子どもが小さい頃からコツコツと結婚に向けた準備をして、子どもがちゃんと生きていけるように、幸せであるように、できるだけのことをするという両親の愛情にはやっぱり感動します。
ライラとレイリのお嫁にいくまでの母との日々や父の思いは泣けました。
生きる力を与えるのが親の務めで、厳しさも全て愛情。
そんな両親のように自分も親になっていく。
全てが生きることにつながる世界でも、生き抜くために愛情は不可欠なんですね。

アミルとカルルクは夫婦として相手を思いやり、引き離そうとされればそれに抗っても一緒にいることを迷いなく選ぶようなアツアツの夫婦です。
8歳の年の差や、しかもカルルクが年下というのがあっても、主人と妻として成り立っているのは二人の愛があってこそ。
カルルクはどう見てもまだ子どもなのに、かっこいいな、素敵な旦那様だなと思います。
幸せそうだし、両想いが熱すぎて、ただただ羨ましいです。
私だってカルルク全然いけるしって思います。
ユスフみたいな大人になるのかな~かっこよく成長するんだろうな~!
アミルが色々すごすぎて全く敵いませんけど。
美人で素直で天然で可愛くて…狩りも刺繍も料理もなんでもできるし…
お兄さんのアゼルもかっこよくて強いし、なんだかんだ妹思い。
自分の立場を投げ出さず、置かれた中でできうることをするという、スーパーかっこいいお兄様です。
あ、なんか出てくる男の人、みんなかっこいいかも。
サームとサーミ、ウマル、アリも…みんな当たり前のように何でもできちゃいます。
頼りがいがありすぎてイチコロです。
なんでもできるのは女の人たちもか。
刺繍とか度々出てきますが、こういうふうに女性が代々受け継いでいく技術もすごい。
生きていくために必要なものは何でも自分たちで作るような生活の様子や、文化や風習もよく描かれていて面白いです。
特に「姉妹妻」は濃いユリ臭がして印象深かった…
あとがきでも中央アジアや中近東の文化について触れられるので読みごたえありです。

これからのカルルクの成長や、二人のラブが深まっていくのとか、周りの結婚なんかも色々楽しみです!